腎臓となた豆茶について

こんにちは、じんぞうの学校医師の森 維久郎です。

今日は、「なた豆茶は腎臓病にいいの?」というテーマでお話しします。

実は最近、患者さんからよく聞かれるんです。「ネットで、なた豆茶を飲んだら腎機能が良くなったって見ました。本当ですか?」って。

で、YoutubeとかWEBとか見ていると

  • 「なた豆茶のおかげで腎臓が良くなりました」という体験談
  • 「腎臓浄化!腎臓が良くなりたいならこれを飲んで!」という医療従事者のススメ

という情報もありみんなこれを見て私に聞いているんだなとわかりました。

今回は医学的なエビデンスにもとづいて、

✔なた豆茶の成分やその働き
✔腎臓病患者さんにとってのリスクと注意点
✔そして実際に私の患者さんで起こった2つの事例

について、しっかり解説していきます。

🫘なた豆茶ってそもそも何?

なた豆茶というのは、「なた豆」っていうマメ科の植物を焙煎して作ったお茶です。古くから「膿を出す」とか「副鼻腔炎にいい」とされて、民間療法的に飲まれてきたものです。

成分としては、血液・体液の浄化作用、血行促進作用が期待されるカナバニン、抗炎症作用が期待されるレクチン、ポリフェノールなどが含まれています

📚なた豆茶のエビデンスの実際

じゃあ、なた豆茶って飲んで意味あるの?

実は、動物実験や試験管レベルの研究では、確かに一部の抗炎症作用や抗酸化作用が報告されています。

でもそれって、マウスとか細胞レベルの話であって、人の腎臓病患者さんで効くという証拠からほど遠いデーターです。

「腎臓のろ過機能にいい」とか「体の毒を出す」なんて言われてることもありますが、
実際に人間の腎臓病に効くという臨床試験は、今のところ存在しません。

つまり、「期待はできるけど、医学的にはまだ確証がない」程度で解釈しているインフルエンサーも多くいますが、正直全然期待すらできないほどの根拠です。

なお、ネットでは多くの体験談が掲載されています。

しかしこの類の体験談には解釈が必要です。

詳しくは別の記事で触れるつもりですが、

  • 悪い体験談は書かない(購入した自分の行動を否定したくないという心理)
  • 腎機能の値は日によって上下して値が悪くなったときに患者さんは介入をするので次の検査で良くなったように感じる
  • 検査値を改善させるためになた豆茶以外の生活習慣も改善する など

様々なバイアスがあり、この類を根拠にするのは医学の世界ではタブーになっています。

⚠️なた豆のリスクもあるが

そしてここが大事なのが、なた豆茶のリスクです。

一応、カリウム血症、消化器症状などが挙げられます。

ただし、これらのリスクは非常に小さく限定的と考えています。

📚公的機関のスタンス

日本の慢性腎臓病のガイドラインや学会声明になた豆茶に関する記載は見当たらず、特定のハーブティーを治療として奨励するような推奨も行われていません。これは、現状で有効性が証明されていないためと考えられます。

また海外の腎臓専門機関も、一般論としてハーブサプリメントへの注意喚起を行っています。米国腎臓財団や世界的な名医が集まるメイヨークリニックの情報サイトでは「腎臓病の患者はハーブサプリメントに注意すべき」「一部のハーブ製品は腎臓に有害作用があったり薬物治療との相互作用を起こす可能性がある」と警告しています​。

なた豆茶がそうした危険なハーブに該当するとは言いませんが、「天然だから安全」「民間療法だから副作用がない」とは限らないというのが専門家の共通認識です

一方で、イギリスの腎臓病支援団体は「市販のハーブティーやフルーツティーは希釈されているので通常は安全」としています。

つまり治療目的ではなく嗜好品として少量飲む範囲であれば、大きな問題にはならないだろうということです。

私も概ね同じスタンスで考えており嗜好品として少量飲む範囲であればOKとしていることが多いです。(コーヒーも同様に考えています。)

ここで私が問題にしているのが、Youtubeやウェブでなた豆茶を勧めることでビジネスをしている方々が「なた豆茶が老廃物を除去して腎臓浄化をしクレアチニンが下がる」と表現していることです。

原則、腎機能は改善しません。その中、判明した魔法の飲み物のように誤認させてしまい、事実私の患者さんでも大量に購入しているが一定数いらっしゃいます。

そして決して数は多くはありませんが、患者さんに健康被害が起きています。

💥実際に起こった事例

ここで、私が実際に診た2人の患者さんの事例を紹介します。

事例1:70代男性

透析まではいっていないけど、腎機能がかなり低下していた患者さん。
「なた豆茶がいいらしい」と聞いて、藁もすがる思いで毎日1リットル以上飲んでいました。

血液検査で、Na(ナトリウム)の値が120前後で低下していました。

色々精査しても全然原因が特定できず、最後の最後に患者さんからなた豆茶を大量に購入して飲んでいるという話を聞きました。

この方は症状はありませんでしたがなた豆茶を中止したところ、ナトリウム値は改善しました。

事例2:60代女性

この方も、腎臓が悪くて塩分制限中。

なた豆茶を「健康のため」と信じて、1.5L以上/日も摂っていました。

結果、やはり低Na血症に。

この方についてはボーとすることが多くなったとのことで、急いで中止してナトリウム値は改善しました。

2人とも、特定のYoutuberの情報をみてなた豆茶が良いと信じた、そして藁もすがる思いで購入したという共通点がありました。

ちなみになた豆茶が低Na血症の原因となるかどうかは明らかではなく違う原因があった可能性もあります。

ただし健康茶と低Na血症の関係について少なからず日本や海外でも報告されております。特にデトックスの名のもと多尿が起きて低Na血症となり、集中治療室での治療を必要とした事例もあるようです。

🩺結論

私が患者さんにお伝えしているのはこうです。

「なた豆茶を絶対に飲んではいけない」とは言いません。

嗜好品として少量飲む範囲であればOKです。

ただしなた豆茶が腎臓病に効くというのは現段階ではガセです。

なた豆茶に限らず、〇〇で腎臓は回復するという類の情報はすべて嘘で営利目的のガセ情報です。

あまり振り回されないようにしましょう。