
慢性腎臓病ではロキソニンを使ってはいけないのか

よく患者さんや他科の先生方から『慢性腎臓病患者にロキソニンを使ってはいけないのですか?』と質問を受けるので、今回はロキソニンと腎臓を記事にしてみます。以下のようなお悩みがある方向けです。
・患者さんに、痛み止めがほしいと言われて困っている医療従事者の方。
ロキソニンは原則使わない方がよい
まず、添付文章には以下のように記載されています。
重篤な腎障害患者にはロキソニンは禁忌である。
ただし現場では、重篤な腎機能障害とはどの程度かが曖昧であることや、痛みを止める代案があまりなくどうしてもロキソニンを使用したくなり、実際処方されていることがあります。
今回は、敢えてどうしても使いたい時はどこまでなら使っていいのかにフォーカスを当てて話を進めていこうと思います。
ロキソニンはなぜ腎臓を悪くするか
ロキソニンは「COX(コックス)」という酵素に作用して痛みを抑えます。「COX」は炎症や痛みを引き起こす一方、胃の粘膜を守るなどの痛み以外の役割があります。
そのためロキソニンを飲むことで、副作用として一緒に胃の粘膜が荒れたり、腎臓の障害がおきると考えられています。
ロキソニンと腎臓の障害
腎臓の悪くなるパターンは「急激にわるくなるとき」、「慢性的に少しずつ悪くなるとき」の2種類あります。この2種類をしっかり分けて理解をする必要があります。
急激にわるくなるとき
急激に悪くなるのは、以下のようなメカニズムです
- 腎臓の入り口の血管が狭くなり、必要な血液が流れなくなる。
- アレルギーの反応で腎臓が障害される。
ロキソニンなどのNSAIDsという薬をつかった患者さんの約1-5%で起きるという報告もあるほどよく見られる障害です。(Am J Med. 1999 May 31;106(5B):43S-50S.)
医療の現場では、以下の5つの要素が複合的に重なることで腎機能障害が起きることが多いです。
- 高齢者
- 脱水
- 血中カルシウム値が高い
- 心不全、ネフローゼ、肝硬変がある
- 腎臓の血流を下げる血圧の薬をのんでいる
特に、「夏場に痛み止めを飲み、更に骨粗鬆症があってカルシウム製剤を飲んでいる、おばあちゃんが、脱水になって腎臓が悪くなった。」みたいなのが定番です。
対策としては、以下のようなものがあります。
- 水をしっかり飲む
- 血液検査、尿検査を適宜する。
ロキソニンは飲むとき、特に夏場は腎機能が悪くなる可能性があることを知り、水分補給をしっかり行う必要があります。そして定期的に採血検査などで自分の腎臓の状態を把握することが大切です。
慢性的に悪くなるとき
ロキソニンを飲むことで慢性的にジワジワ悪くなっていくパターンもあります。このパターンのメカニズムは良く分かっていません。
慢性的な障害に関しては、一生涯で何錠まで飲んで良いのかという質問を受けます。これには、一概に結論つけることはできませんが、世の中で考えられている以上に大丈夫と考えられているようです。
過去に様々な報告がありますが、まとめると以下のような報告が多いです。
- 一生涯で5000錠以上投与するのは良くないかもしれない。
- 一生涯で2500錠くらいなら大丈夫かもしれない。
- 一気に大量に使うのはよくない。
- 漠然と使用するのはよくない。
(参考文献)
JAMA. 2001 Jul 18;286(3):315-21.
Arch Intern Med. 2004 Jul 26;164(14):1519-24.
N Engl J Med. 1994 Dec 22;331(25):1675-9.
Am J Med. 2007 Mar;120(3):280.e1-7.
個人的なロキソニンの使い方
最終的に、個人的には以下のような使用をしています。
2:ほかの薬を使用する。
3:どうしても使いたいときは、脱水、薬などのチェックをして、定期的に採血、採尿をする。
ロキソニンと腎臓については、コンセンサスもなく、グレーな情報も多いので判断が難しいところではありますが、一概に『ロキソニン=腎障害』という安直な判断をするのではなく、どこまでなら使用出来そうなのかを今回調べてみました。