
慢性腎臓病では本当に尿酸値を下げる必要があるのか?

尿酸値が高いと腎臓を障害する可能性があり、腎臓病では尿酸値を下げた方が良いと言われていました。
しかし、2018年頃から尿酸はあんまり下げなくても良いのではないかという報告が出始めていました。
2020年6月25日に腎臓と尿酸に関する報告がアップデートされたので、加筆・修正しました。
尿酸とは
尿酸とはDNAなどが分解された時に老廃物から出る物質です。この尿酸値が持続的に血液中にたまった状態を高尿酸血症と言います。高尿酸血症の状態が持続すると、以下の2つを引き起こします。
- 塊を作り炎症を引き起こし痛風の原因となる。
- 血管の動脈硬化の原因となる。
加えて、高尿酸血症が持続すると、腎臓を障害する可能性が報告されています。
メカニズムははっきり分かっていませんが、動脈硬化だけでなく、酸化ストレスと過酸化ラジカルなどの腎障害に関わるメカニズムに影響を及ぼしたり、腎臓の血流量に影響を及ぼしている可能性が考えられています。
尿酸が高くなる原因
尿酸が高くなる理由としては以下の2つの要素があります。
- 食事の影響
- 生活習慣の影響
前者の代表例としては、ビール、干魚、レバー、卵などがあります。後者の代表例としては、肥満、運動不足、ストレス、内蔵脂肪などがあります。
尿酸が高いと、食生活の見直しをされる方が多いのですが、実は生活習慣がそれ以上に影響を与えることが最近分かっています。尿酸は80%が尿から、残りの20%が便から排出されます。そのため、腎臓が悪くなると尿酸値が高くなります。
尿酸を治療する理由
腎臓病の患者さんで尿酸値を下げる理由は2つあります。
- 痛風を予防する
- 腎臓の障害を防ぐ
ただし後者に関しては、意見が割れておりその点については最後の章で触れます。
痛風を予防する
痛風とは、尿酸の塊が関節で起こした炎症を指し、激しい痛みや腫れを引き起こします。
日本では尿酸が9.0mg/dl以上の場合、5年間で痛風を起こす可能性が20%を越えるため、治療を開始することが推奨されています。
ちなみに、アメリカなどの海外では痛風の既往があったり、尿酸値11-12mg/dl以上にならないと薬を飲まないようです。
腎臓の障害を防ぐ
尿酸は腎臓の障害を引き起こす可能性があります。
日本の腎臓病の患者さんに対しては、尿酸値が7.0mg/dlを超えたら内服加療を開始することが推奨されています。
尿酸の治療法
尿酸の治療としては主に生活習慣の是正と薬の治療があります。
生活習慣の是正
まずは、生活習慣の是正から始めます。
尿酸を上げる食事を減らしながら時間をかけて、減量などの生活習慣是正・体質改善を行います。
食事についてはプリン体を多く含んだ食事を控えましょう。プリン体は核酸と言われる成分の一つでビールや卵などに多く含まれます。
また干し物、レバーにも多く含まれています。ビール✕おつまみのダブルパンチに注意しましょう。
薬の治療
薬に関しては、以下の薬が使用されます。
- フェブリク(フェブキソスタット)
- アロプリノール
- ユリノーム(ベンズブロマロン)
- ベネシッド(プロベネシド) など
良く使用されるのは、最初の2つの薬です。
フェブリクは腎機能による薬の調整が不要なのがメリットで、アロプリノールはごくわずかに心臓合併症が少ないというメリットがあり状況に応じて使い分けをします。
尿酸と腎臓についての新しい知見
さて、ここからは医療従事者向けの内容を書きます。
2018年のCKD診療ガイドラインでは、腎保護効果がを期待して治療を行うことが推奨されています。
一方で2018年以降に「そこまで下げなくても良いのではないか」とも解釈できる論文が出てきたので、数年の論文をレビューしながら今までの流れを簡単にまとめたいとおもいます。
Uric Acid and the Risks of Kidney Failure and Death in Individuals With CKD
2018年の夏にAJKDから出た論文では以下の内容の報告が出ました。
1)eGFR>45ml/min/1.73m2の場合:尿酸が高い方が腎死になる可能性が高い。
2)eGFR<30ml/min/1.73m2の場合:尿酸が高い方が腎死になる可能性が低い。
論文での記載によると、尿酸には腎臓を壊すメカニズムと共に、腎臓を守るメカニズムがある可能性が指摘されています。
あくまで可能性ですが、もしかしたらeGFR<30ml/min/1.73m2の腎臓病患者さんにとっては、尿酸値が高い方が腎臓にはよく作用するかもしれないと考えることができるようです。
FEATHER STUDY
同年の秋に、RCTという科学的根拠が非常に高い方法を使用した研究結果が出ました。
フェブリクでの尿酸の治療により、腎臓の障害を抑えることが出来るのかを調べた結果、期待された効果は認められませんでした。
ただし、サブ解析を行った結果、タンパク尿が出ていない患者さんに対してはある程度の効果を認め、特定の患者さんには尿酸を腎臓を守る可能性も指摘されました。
PERL STUDY
2020年にNEJMから出た報告です。
1型糖尿病と早期~中等度の糖尿病性腎臓病に対して、アロプリノールによる尿酸の治療で腎臓の障害を抑えることが出来るのかを調べた結果、期待された効果は認められませんでした。
ただしこの研究でもFEATHER STUDYと同様にアルブミン尿が出ていない患者さんに対しては、もしかしたら効果があるかもしれないという内容の結果も出ています。
CKD-FIX STUDY
こちらも2020年にNEJMから出た報告です。
CKD stage3-4に対して、アロプリノールによる尿酸の治療で腎臓の障害を抑えることが出来るのかを調べた結果、期待された効果は認められませんでした。
尿酸と腎臓についての現段階での筆者の考え
ここ数年で、腎臓病に対する尿酸の治療に関しては動きがあり、まだまだ他の研究結果を待つ段階ですが、個人的にはこう考えています。
1:腎保護目的の尿酸の治療は思っていたほど期待できない。
2:ただし動脈硬化が進行した腎硬化症の場合はもしかしたら効果があるかも。
2に関しては、ラットの研究で尿酸による腎血流の変化を報告した研究があります。
あくまで基礎研究であり参考にしかなりませんが、動脈硬化が進行しており糸球体の輸入細動脈の硝子化が予想される病態には尿酸の治療が良い方向に働くような解釈が出来る報告です。
蛋白尿が出ていない腎機能障害は多くの場合、動脈硬化の腎硬化症のことが多く、過去の論文のデーターとの整合性も取れると考えます。