
薬の治療

慢性腎臓病の薬の治療
慢性腎臓病になると、腎臓だけでなく心臓、骨、筋肉、脳などの全身の様々な臓器に異常が出て様々な合併症が起きるため、複数の対策が必要になります。
慢性腎臓病の薬として数多くの薬がありますが、今回は以下の5つの薬に触れたいと思います。
- 血圧の薬
- 血糖の薬
- 貧血の薬
- カリウムの薬
- その他
血圧の薬
慢性腎臓病の治療で一番大切なのは血圧を適正にすることです。
血圧の治療目標
以下の血圧を目標にしてコントロールします。
タンパク尿がない時:140/90mmHg以下
タンパク尿がある時:130/80mmHg以下
血圧を適正にすることで腎臓を長持ちさせることが出来ます。
血圧の治療の一番の注意点は低血圧で、以下のような場合は薬の調整を行うことがあります。
- ふらつき、立ちくらみがある
- 上の血圧が100-110mmHg以下の状態が持続する
慢性腎臓病では血圧を下げるだけでも十分保護する効果は期待できますが、血圧の中には血圧を下げるだけでなく特殊なメカニズムで腎臓や腎臓病の合併症を保護する効果を期待して使う以下の3つの薬があります。
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(以下:ARB/ACE-I)
- ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(以下:MRA)
- β遮断薬
一つ一つ解説していきます。

ARB/ACE-I
血圧を上げるレニン・アンギオテンシン・アルドステロンという身体のホルモンの分泌に作用することで血圧を下げるお薬です。
薬の名前としては以下のようなものがあります。
- ロサルタン(ニューロタン)
- アジルバ(アジルサルタン)
- オルメテック(オルメサルタン)
- ブロプレス(カンデサルタン)
- ディオバン(バルサルタン)
- ミカルディス(テルミサルサン)
- レニベース(エナラプリル) など
日本でも良く使用されており、血圧を下げるだけでなく、以下のような作用があり心臓・腎臓に保護的に働きます。
- 糸球体にかかる負担を減らす
- 交感神経の活性化を抑える
一方で以下のような注意点があるので、適宜血液検査を行って経過を確認することがあります。
- 腎臓の血流を減らしすぎる可能性
- ミネラル(カリウムなど)の異常を起こす可能性
腎臓病の診療では、特に以下のような背景のある患者さんにこの薬を使用するときは、腎臓の血流が減り腎臓を障害する可能性があるので注意しながら使用します。
- 動脈硬化が強い場合
- 高齢者の場合
- 夏場で脱水がある場合
- ロキソニンやカルシウムの薬を飲んでいる場合 など
MRA
血圧を上げるアルドステロンというホルモンとしてブロックして血圧を下げる効果があります。
薬の名前としては以下のようなものがあります。
- アルダクトン(スピロノラクトン)
- セララ(エプレレノン)
- ミネブロ(エサキセレノン)
血圧を下げるだけでなく、腎臓の尿細管と呼ばれる場所を保護したり、塩分摂取の腎臓に与える影響を抑えて腎臓を保護すると考えられています。
また腎臓病の合併症である心臓の病気に対しても保護的に働きます。
一方で、カリウムの異常の原因になることがあるので注意が必要です。
β遮断薬
慢性腎臓病の交感神経の活性化を抑える薬で、以下の2つのβ遮断薬がよく使用されています。
- アーチスト(カルベジロール)
- メインテート(メトプロロール)
主に心臓の保護作用が期待できる血圧の薬ですが、腎臓に対しての保護効果も期待できます。
その他
その他使用される薬として以下のようなものがあります。
- サイアザイド利尿薬
- カルシウム拮抗薬
- α遮断薬
- 直接レニン阻害薬
血糖の薬
慢性腎臓病で透析が必要になる患者さんの1番の原因は糖尿病であり、血糖の治療が大切です。
血糖の治療目標
以下を目標にして血糖コントロールします。
HbA1c7.0%以下
また糖尿病による腎臓の影響を調べる尿検査として以下の検査があります。
尿中アルブミン
尿中アルブミンは腎臓のSOSのような働きを示して、なるべく減らしていくのが望ましいです。
血糖の薬の中で、以下の2つについては腎臓に対して保護的に働くため積極的に投与します。
- SGLT-2阻害薬
- GLP1受容体作動薬
SGLT-2阻害薬
SGLT-2阻害薬は、余分な糖を尿から出すことで血糖値を下げる薬で、以下のような名前の薬があります。
- フォシーガ
- ジャディアンス
- カナグル
- スーグラ など
血糖を下げるだけでなく、様々なメカニズムが関わり腎臓を守る作用が期待できます。
それだけなく、心臓の病気に対しても保護的に働くため心不全の治療にもよく使用されます。
非常に良い薬ですが、副作用として以下のようなものがあります。
- 尿の感染症
- 性器の感染症 など
そのため、しっかりと水をしっかり飲みましょう。
血糖を下げる効果も強いので、体調が悪い時は低血糖や脱水になるリスクが増えるので休薬して医師に相談してください。
GLP1受容体作動薬
GLP1受容体作動薬は、血糖値が上がった時に血糖を肝臓や筋肉などに取り込むGLP1の作用を増やして血糖値を下げる薬で、以下のような名前の薬があります。
- ビクトーザ(リラグルチド)
- オゼンピック(セマグルチド)
- トルリシティ(デュラグルチド)
- リベルサス(セマグルチド) など
リベルサスは飲み薬で、その他の薬は注射薬です。
血糖を下げるだけでなく腎臓に保護的に働いたり、体重減少効果も期待できます。
その他
慢性腎臓病になると糖尿病の薬で使用できるものに限りがあり、以下の4つの治療法を選択することが多いです。
- グリニド系薬
- DDP-4阻害薬
- α-グルコシダーゼ阻害薬
- インスリン注射
貧血の薬
慢性腎臓病になるとエリスロポエチンという造血のホルモンの分泌が減り、腎性貧血と呼ばれる貧血が起きます。
貧血は腎臓や心臓に悪影響を与えるため治療が必要で、以下を治療目標としてコントロールします。
ヘモグロビン値:11~13g/dl
腎性貧血の治療として以下のような2種類の治療があります。
- 赤血球造血刺激因子製剤(以下:ESA)
- HIF-PF阻害薬
ESA
腎臓が分泌されるエリスロポエチンを、直接補充する注射薬の治療で、薬の名前として以下のようなものがあります。
- ネスプ
- ミルセラ
- ダルべポエチン など
約4週間~6週間の頻度で補充をして治療を行います。
HIF-PH阻害薬
ESA製剤と異なりエリスロポエチンを直接補充するのではなく、体内のエリスロポエチンを有効活用させる効果があります。
現在使用されている薬には以下のようなものがあります。
- ダーブロック
- バフセオ
- エベレンゾ など
一番のESAとの違いは、点滴ではなく飲み薬である点です。
まだ使用経験の少ない新しい薬なので、ESAが効かない場合に使用されますが、今後利用されるシーンは増えていくでしょう。
カリウムの薬
慢性腎臓病になるとカリウムというミネラルが増えてしまい、突然死を引き起こす不整脈が起きる可能性があるため以下のような治療目標で治療します。
カリウム値:5.5mEq/L以下
そのため、カリウムの腸から吸収を抑える治療としてカリウム吸着薬を使用し、薬の名前として以下のようなものがあります。
- カリメート・アーガメイトゼリー(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)
- ケイキサレート(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)
- ロケルマ(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム)
個人的にはこれらの薬の中でロケルマは好んで使用しています。
メリットとしては以下のようなものがあります。
- カリウムの吸着性が良い
- 消化器症状が比較的少ない
- カルシウムなどのカリウム以外のミネラルの影響が少ない
- 1日1回で済む
一方でメリットとして以下のようなものがあります。
- 薬の値段が高い
- 塩分が含まれている
その他
血圧、血糖、貧血、カリウムの薬以外に以下のような薬を使用します。
クレメジン
腸内の毒素の吸収を減らすことで腎臓への影響を減らす薬です。
昔は積極的に使われていましたが、軽度の腎機能障害に対する効果は乏しい可能性があり、主に透析が近くなってきた重症の症例に使われています。
副作用として消化器症状があり、便秘、食欲低下、悪心などがあります。
カルシウムの薬
慢性腎臓病の患者ではビタミンDの活性化に関わる物質が減り、カルシウムが不足します。
カルシウムが不足すると骨を溶かすことで血液中のカルシウムを補うため骨が脆くなったり、動脈硬化が進行するため適宜ビタミンDを投与します。
リンの薬
腎臓が悪くなると、リンというミネラルが身体に溜まります。
リンが高い状態は、骨折や動脈硬化を引き起こし、最終的に心臓の病気や、脳の病気、そして腎臓の障害を引き起こすと言われています。
リンを腸で吸収しないようにする以下の薬を使用します。
- リオナ
- ピートル
- ホスレノール など
コレステロールの薬
慢性腎臓病の患者さんは心臓の病気になる確率が高く、コレステロールをしっかり下げることで心臓の病気になるリスクを減らすことが出来ます。
コレステロールの治療としてスタチンと呼ばれる薬を使用し、薬の名前として以下のようなものを使用します。
- クレストール
- メバロチン
- アトルバスタチン など
重曹
慢性腎臓病になると体が酸性になり、酸性の状態が腎機能を障害するため必要に応じてアルカリにする治療を行う必要があります。
重曹と呼ばれる薬を適宜使用します。