食事の治療
こんにちは、じんぞうの学校の校長で腎臓専門医の森 維久郎です。
この記事では腎臓病の患者さんにとって一番悩みの食事の治療について触れたいと思います。
日々診療をしていると、インターネットで調べてみると、あれも食べちゃダメ、これも食べちゃダメと書かれており、じゃぁ一体何を食べたらよいと悩まれている方が多いように感じます。
そして不必要な食事制限をしていたり、我流の間違った食事療法を選択している人が非常に多いと感じています。
個人的にはインターネットで叫ばれているような食事療法が本当に必要な患者さんは1-2割程度なんじゃないかと思っています。
この記事では慢性腎臓病の全体像をお話しして、細かい点については各項目にリンクを貼るのでご参照ください。
塩分を減らす
慢性腎臓病の食事療法で一番大切なのは、塩分を減らすことで、以下を目標に治療していきます。
1日当たりの塩分摂取量:3-6g
塩分6g/日という値のイメージが中々付きにくいと思いますが、日本人の平均塩分摂取量が10g/日程度で約半分を目指す必要があり、慢性腎臓病の患者さんで塩分6g/日以下にできている人は10-20%ぐらいしかいないといわれています。
塩分を減らす効果
塩分を減らすことで以下のような効果が期待できます。
- 血圧を下げる
- 腎臓の尿細管に保護的に作用する
- 腎臓の合併症である心臓の病気にも保護的に作用する
血圧は慢性腎臓病において最も大切な治療の一つであり、塩分を減らすことで1g/日あたり1-2mmHg程度の血圧を減らす効果が期待できます。
日本人の平均である10g/日の塩分摂取量の人が、5g/日に塩分を減らすとおおよそ脳の病気になる可能性が40%ほど減り、心臓の病気になる可能性が20%ほど減ると考えられています。
塩分を減らす方法
塩分を減らすテクニックとして以下のようなものがあります。
- ダシ・香辛料・酢などを使った料理のテクニックを覚える
- 味覚の状況を知る
- 尿検査で塩分摂取量を調べる
料理のテクニックは一度専門の管理栄養士と相談しながら身に着けていくと良いでしょう。
塩分についてはyoutubeチャンネルでも解説しているので是非ご参照ください。
カリウムを減らす
カリウムを減らし、心停止を引き起こす心臓の不整脈になる可能性を防ぐために血液検査のカリウム値を以下の目標でコントロールをします。
カリウム値:4.0~5.5mEq/L
カリウムを含む食事として野菜・果物が代表的で、血液中のカリウムが多い場合は量を減らしたり、野菜を煮こぼして食べるなどの対応が必要になることがあります。
ただし、カリウムが腎臓を直接障害するわけではなく、血液検査でカリウム値が高くなければカリウムの制限が不要になることもあります。
また腎臓学会が発行するガイドラインでもカリウムの制限が推奨されているのは慢性腎臓病ステージ3b以降の方であり、慢性腎臓病ステージ3aの方には制限が不要なケースが多いように感じます。
タンパク質を減らす
慢性腎臓病ではタンパク質の減らす食事療法が推奨されていて、1日あたりのタンパク質の量を以下にすることが推奨されています。
慢性腎臓病ステージ3a:0.8-1.0g/体重
慢性腎臓病ステージ3b以降:0.6-0.8g/体重
タンパク質を減らすと以下のような効果が期待できます。
- 尿毒素を減らす
- 糸球体にかかる負担を減らす
タンパク質を減らす分、必要なカロリーを他の炭水化物や脂質で補う必要があり、専門の管理栄養士とタッグを組み治療を行う必要があります。
近年、我流でタンパク制限を行い、タンパクを減らしすぎたり、カロリーを減らしすぎたりして筋肉が衰えて健康状態を害してしまう事例が問題視されています。
タンパク質一つとっても、動物性なのか植物性のタンパクなのか、リンを多く含むのかなどどのようなタンパク質を選ぶのかをしっかり検討する必要があるので管理栄養士と相談することを推奨します。
タンパク質についてはyoutubeチャンネルでも解説しているので是非ご参照ください。
リンを減らす
慢性腎臓病になると、リンを尿から出せなくなり、血液中に溜まってしまいます。リンが増えると心筋梗塞や脳梗塞のリスクが増えるためリンが高い場合はリンを減らす治療が望ましいです。
リンはタンパク質に多く含まれており代表例が加工食品、肉、添加物などで、タンパク質を減らすと自然とリンを減らすことができます。
特にハム・ソーセージなどに含まれるリンは腸からの吸収が良くリンを上げやすくなります。
水分を減らす
慢性腎臓病が進行して、尿を作る機能が衰えると浮腫みが出たり、心臓に負担がかかるので水分を減らす治療が行われます。
どのくらい水分を飲んでよいかは人によります。
一慢性腎臓病がまだ軽症だったり、心臓の病気が無い場合は喉が渇いたら適宜水分補給をするぐらいの意識で良いと考えます。
また夏場で脱水になると腎機能が低下するので普段よりもこまめな水分補給が必要です。
カルシウムをしっかりとる
慢性腎臓病ではビタミンDと呼ばれるカルシウムの代謝に関わる物質を活性化できなくなり、カルシウムが不足してしまうため適宜補う必要があります。
一方で、カルシウムが増えすぎたら増えすぎたで動脈硬化の進行、血管の石灰化を進行させるため血液検査で以下の目標でコントロールします。
カルシウム値:8.5-10.0mg/dl
そのために摂るべきカルシウムの量は明確に決まっていませんが、海外のガイドラインなどを参照すると1000mg-1500mg/日程度のカルシウムが適正なのではないかと考えます。
これらを全て食事で補うのは困難なのでビタミンDを補う薬を適宜使用するのが良いでしょう。
カロリーと脂質も適正に
慢性腎臓病で食事制限をしている場合は、カロリーや脂質を意識的に適正にする必要があり、1日あたり以下のような目安で考えて頂けると良いでしょう。
- カロリー:25-35キロカロリー/kg
- 脂質:総カロリーの20-30%
肥満がある場合は脂質を減らすなどの微調整が必要です。
食物繊維は積極的に
食物繊維は心臓、糖尿病、癌に対して予防的に働くため、積極的に摂取したいです。
また腎臓にとっても保護的に働く可能性があります。
ただし、食物繊維が多い食事はカリウムを含んでいる事が多いため、人によっては注意が必要です。
さいごに ~これを食べたら良いというものはない~
あくまで時と場合によるので断言しづらい部分もありますが、慢性腎臓病の患者さんの約7-8割の方は、塩分を減らし、その他はバランス良く食べるというシンプルな食事療法で良いのではないかと感じています。
これを食べたら腎臓に良いというものはありません。
血液検査・尿検査結果に基づき、バランスを考えて治療をする必要があります。
以下の検査データーにおける自分のデーターがわからないという人は、食事の治療をする以前の段階で非常に危険です。
しっかり検査データーを見ながら自分のデーターを把握して、専門の管理栄養士と相談して献立を組み立てると良いでしょう。
腎臓の食事についてお困りの方へ
腎臓の食事療法は複雑であり、あれもダメこれもダメと言われ、いったい何を食べたら良いんだと悩まれている方を多く見かけます。
Youtubeチャンネル「じんぞうの学校」では、腎臓の食事療法などのお役立ちを配信しておりますので是非一度ご覧になってください。
~動画はこちら~
次回は腎臓の食事療法でもっともご相談の多いカリウムについて触れたいと思います。
この記事を書いた人
じんぞうの学校の記事は腎臓専門医の森 維久郎が監修しております。
年間1万人以上(延べ人数)の患者さんする傍ら、書籍(合計2万冊以上)やYoutube(チャンネル登録者数17000人以上)で積極的に情報発信を行っております。
YOUTUBEチャンネル
書籍
- 書籍「腎臓病とわかったら最初に読む食事の本(無理なく続けられる満足レシピ)」
- 書籍「赤羽もり内科・腎臓内科式 腎臓病のレシピの教科書: 管理栄養士にも役立つ」
- 書籍「専門医が教える! 腎機能を守る食べ方・運動・生活習慣」
- 書籍「腎臓病でも楽しめるラーメン・パスタ・うどん(奇跡の減塩レシピ)」
連携クリニック
じんぞうの学校は「赤羽もりクリニック」と連携しております。
赤羽もりクリニックは腎臓病の悪くならないようにすることに特化したクリニックで、腎臓専門医4名、管理栄養士5名を中心に日々の診療をしております。
特に管理栄養士による栄養相談に力を入れており、年間3600件以上の栄養相談を受け入れております。
クリニックについては以下の動画をご参照ください。
クリニックにご興味がある方は以下のボタンをタップして公式ホームページをご覧ください。
【じんぞうの学校について】
【基礎知識】
【食事療法総論】
【食事療法各論】
【コラム】