
腎代替療法

まず最初に
当サイトでは、腎臓病の患者さんが透析を遅らせるような情報提供を中心に行っていますが、今回は敢えて移植や透析医療についての情報提供を行います。
何故ならば、透析になりたくないという気持ち一心で透析の話を全く聞かず完全にシャットダウンしてしまい、準備のないまま緊急透析をすることになる患者様が一定数いらっしゃるからです。
緊急透析は死亡リスク、合併症リスクを増やす非常に危険な治療であり、入院期間も長くなります。
また、本当は腎移植や腹膜透析を希望していたのに、情報提供が無かったため、希望するライフスタイル(仕事が続けるなど)を選択できなくなる可能性があります。
そのため、透析を遅らせることに専念しつつも、もし透析が必要になったときにどうするのかということは頭の片隅でも良いので検討しておく必要があります。

腎代替療法とは
慢性腎臓病が進行すると、身体に不要な毒素と水分が身体の外に出しきれなくなります。
その際に腎臓の役割を他の方法で補う必要があり、末期腎不全の治療手段を腎代替療法と呼びます。
腎代替療法には以下の3つの方法があります。
- 腎移植
- 血液透析
- 腹膜透析
腎移植
腎移植は、他の方の腎臓を外科的手術を行い移植をする治療です。
透析医療と比較して、補助的ではなく根本的に治療をする非常にパワーのある治療です。
腎移植のメリット
腎移植のメリットの中で代表的なものは以下の3つです。
- 日常生活の質(QOL)が上がる。
- 就労・妊娠が比較的しやすくなる。
- 医療経済的にも優しい。
腎移植のデメリット
腎移植のデメリットの中で代表的なものは以下の2つです。
- 拒絶を防ぐために必要な免疫を抑える薬は一生飲み続ける必要がある。
- 移植をしても腎臓病から完全に解放されるわけではない。
またドナーが見つからない場合など、誰もが簡単にできる治療ではないという難点もあります。
腎移植の方法
以下の2種類の方法があります。
- 生体腎移植:親族6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の親戚から腎臓をもらう
- 献腎移植:脳死など亡くなった方の腎臓をもらう
生体腎移植
生体腎移植は生きている人の腎臓をもらう方法で、日本でもっとも行われている腎移植の方法です。
腎臓を提供する方(ドナー)は親族、配偶者など3親等以内に親戚に限られます。
当然のことながらドナーの腎臓は1つになります。
現段階では腎臓を提供しても、人工透析が必要になる率は増えないと考えられていますが、ドナーは残った人生を腎臓に負担の無いように心がけて生活していることが多いためと考えられています。
少なくとも移植コーディネーターなどの医療チームがドナー、レシピエントの倫理的かつ精神的な側面の調整を含めた準備を数ヶ月〜1年ほどかけて話を進めていきます。
献腎移植
献腎移植は亡くなった方の腎臓をもらう方法で、日本では国民の倫理感や臓器提供制度など様々な壁があり、まだまだ臓器提供が少なく15年待ちの状態ですが、アメリカなどでは盛んに行われている治療です。(尚16歳以下、20歳以下だと優先的に臓器提供を受けるような仕組みになっています。)
献腎移植の希望がある場合は所定の医療機関で登録を行なう必要があります。
先行的腎移植とは
腎臓病が進行して、透析を始める前に行う移植を先行的腎移植といい、以下のメリットがあります。
- 移植腎の生着率が高い
- 透析による合併症の低下の回避
- 医療費の削減 など
このようなメリットを得るために、早めから準備して、正しい時期に移植をすることが推奨されます。
血液透析
身体にシャントと呼ばれる特別な血管を作り、針を指して血液を取り出して外付けのデバイスを使用してキレイな状態にして体内に戻す治療です。
血液透析は週3日医療機関を受診して、血液の毒素や不要な水を取り出す治療を行う治療です。
血液透析のメリット
血液透析のメリットの中で代表的なものは以下の3つです。
- 医療機関に治療をお任せできる。
- 透析患者さん同士でコミュニケーションをとることが出来る。
- 日本中で行われている。
血液透析のデメリット
血液透析のデメリットの中で代表的なものは以下の2つです。
- 週3回、1日3-4時間程度の通院治療が必要。
- 日常生活の制限がある。
腹膜透析
腹膜透析は腹膜というお腹の臓器を取り囲む膜を使って透析をする方法です。
お腹に小さな穴を空けてそこにチューブを通して、そのチューブを通して透析液をお腹の中に入れて身体の不要物を取り除く治療法です。
腹膜透析のメリット
腹膜透析のメリットの中で代表的なものは以下の2つです。
- 自宅で治療ができ、通院は1カ月に2回程度で良い。
- 就労を続けることが比較的可能。
腹膜透析のデメリット
腹膜透析のメリットの中で代表的なものは以下の3つです。
- 自己管理が必要で、治療自体は毎日行う。
- 5年ほど経つと限界がきて、血液透析への移行が必要。
- 日本で提供できる医療機関がまだ少ない。
腹膜透析を勧める人(私見)
あくまで私見ですが、以下のような方には腹膜透析を検討します。
- 働いており、日中の時間を作りたい方
- 自己管理が出来る若い方
- 家族のサポートが得られやすいご高齢の方
また残っている腎臓のサポートを得ながら治療をするので、腎機能低下のスピードが速い方には若干不利になる治療です。
腹膜透析の方法
腹膜透析には、以下の3つの方法があります。
- 持続携行式腹膜透析(以下:CAPD)
- 自動腹膜透析(以下:APD)
- ハイブリッド療法
CAPD
1日4回ほど透析液の交換を手動で行い、24時間持続的に透析を行う方法です。
操作方法が簡単なのが一番のメリットです。
APD
透析液の交換を特殊な機械を使って3-6回程度行う方法で、主に夜間寝ている間に行われます。
日中の拘束時間が短いため、社会復帰が得られやすいのが特徴です。
ハイブリッド療法
残腎の機能が低下して、腹膜透析だけで不要物の除去が出来ないときに、サポートとして週1回血液透析を行う透析方法です。
透析非導入
医学的背景や患者さんの人生観などを理由に、透析や移植を行なわずそのまま在宅医療と緩和ケアを行う治療法です。
まだ一般的ではありませんが、腎臓病患者さんの高齢化に伴い、例えば認知症で寝たきりの90歳以上の腎臓病患者さんに対して透析をせずに、在宅医療と緩和ケアに切り替えるという選択が少しずつ取られるようになってきました。
日本で緩和ケアを行うのは癌、HIV、心不全などの一部の病気ですが、今後増えていくことが予想されます。
腎代替療法の準備
腎代替療法は明日から行えるものではなく、数か月くらい準備をして始めます。
いつから準備を始めるのか
腎代替療法の準備は、状況次第ですが目安としてeGFR15ml/min/1.73m2以下になったら情報提供を始めます。
準備の流れとしては以下のようになります。
① 各治療法(腎移植、血液透析、腹膜透析)について情報提供を受ける。
② どの治療法を選択するかを決める。
③ 各治療法に応じた準備を行う。
①の情報提供を行う外来を療法選択外来と呼びます。
療法選択外来を受けてから、②の選択をするまでに多くの患者さんで数か月かかります。
そのために透析が必要になる直前ではなく余裕を持たせて情報提供をします。
療法選択外来とは
療法選択外来は、患者さんの腎代替療法の選択をサポートするために行われている外来です。
専門の医師もしくは看護師と一緒に、30分ほど時間をかけてヒアリングと情報提供を行います。
患者さんのライフスタイルや希望をうかがって、模型やビデオを使って各治療法の説明を行います。
可能であれば、家族も同席して話を進めていくのが望ましいです。
各治療法の準備の流れ
腎移植、血液透析、腹膜透析、透析非導入の流れは以下のようなものです。
施設によっても違うためその点はご了承ください。
腎移植の準備の流れ
① 生体腎移植、献腎移植のどちらを選択するかを決める。
② 生体腎移植であれば、ドナーの選定、ドナー・レシピエントの精密検査、社会的環境の整備を行う。
③ 献腎移植であれば、精密検査を受けた上で日本臓器移植ネットワークに登録する。
④ 可能であれば透析が必要になる前に移植を行う先行的腎移植(PEKT)を目指す。
主に腎移植を行っている専門施設に紹介をして行うことが多いです。
血液透析の準備の流れ
① シャント手術の術前の精密検査を行う。
② シャント手術を行う。(目安としてeGFRが10ml/min/1.73m2以下になったら)
③ 腎臓病の外来通院を続ける。
④ 透析が必要になったら、透析を始める。
シャント手術を行ってから、実際に血管が育つようになるまでに数週間かかります。
そのため、透析が必要になる最低でも1カ月前にはシャント手術を行うのが望ましいです。
このシャントが作られないまま腎不全の症状が出現した場合、緊急で首の血管にカテーテルという太い管を入れて透析を始めることになります。
腹膜透析の準備の流れ
① 腹膜透析を受ける前の精密検査を行う。
② 腹膜透析を行うためのカテーテルを入れる手術を行う。(目安としてeGFRが10-15ml/min/1.73m2以下になったら)
③ 腎臓病の外来通院を続ける。
④ 透析が必要になったら、透析を始める。
血液透析とは異なり腹膜透析は残腎の能力を使いながら行う治療なため、血液透析に比べて早めに透析を始めることで残腎を守ることができます。
透析非導入の流れ
① 透析非導入の意志を本人だけでなく、家族ともしっかり協議して最終決定を行う。
② 社会的環境の整備や在宅診療所との連携など医療体制を整える。
③ 外来通院が可能な限り外来診療を続け、外来通院が困難になったら在宅診療を導入する。
④ 症状に応じて苦痛を緩和する治療を行う。
在宅診療、緩和ケアとの連携が必要であり、医療体制と社会的なリソースの整備に数か月以上の時間がかかります。