
多発性嚢胞腎

多発性嚢胞腎とは
多発性嚢胞腎とは、嚢胞(のうほう)という液体の塊が腎臓に出来て元々の腎組織が圧排される病気です。
腎臓だけではなく、肝臓、膵臓、脾臓にも認めて、脳動脈瘤、心弁膜閉鎖不全、大腸憩室、尿路結石などの合併症を伴う事もあります。
日本人では約5000人に1人がなる最も多い遺伝性腎疾患です。
この多発性嚢胞腎の方は、年齢と共に徐々に腎機能が悪くなり、60-70歳頃に約半数が腎不全に至ると言われて、日本で透析になる人の2-3%を占めます。
多発性嚢胞腎の症状
多くの場合は最初は無症状で、以下のようなときにみつかることが多いです。
- 健康診断や人間ドックなどで超音波検査やCT検査を行ない偶然みつかった
- 家族に多発性嚢胞腎があり検査を行った
嚢胞が大きくなったり、嚢胞に感染が起きたりして以下のような症状がでることもあります。
- 腹部膨満感
- 腹痛
- 腰痛 など
多発性嚢胞腎の合併症
多発性嚢胞腎は腎臓に障害が出るだけでなく、全身に以下のような合併症が起きることがあります。
- 脳動脈瘤
- 心臓の弁膜症
- 高血圧
- 尿路感染症、血尿 など
数年に脳のMRIや、心臓のエコー検査などをおこない異常がないかを確認します。
多発性嚢胞腎の予後
40歳ごろから腎機能障害が起きて、70歳ごろに約半数の方で透析や移植が必要な状態になることがあります。
ただし、遺伝因子、高血圧の有無、性別などで進行のスピードは異なります。
多発性嚢胞腎の検査
多発性嚢胞腎の検査として、CT検査(もしくはエコー、MRI)を行い、嚢胞の大きさ・数を確認します。
検査を行い、以下の条件を満たせば診断となります。
● 家族内に多発性嚢胞腎患者がいる場合
- エコーで両腎に3個以上の嚢胞がある。
- CT、MRIで両腎に5個以上の嚢胞がある。
● 家族内に多発性嚢胞腎患者がいない場合
- 15歳以下→CT、MRIで両腎に3個以上の嚢胞がある。
- 15歳以上→CT、MRIで両腎に5個以上の嚢胞がある。(多発性単純性腎嚢胞、尿細管性アシドーシス、多房性嚢胞、髄質嚢胞性疾患などを除外する必要あり。)
多発性嚢胞腎の治療
多発性嚢胞腎の治療は以下の目的で行います。
- 腎臓の保護
- 多発性嚢胞腎の合併症の対策
腎臓の保護
多発性嚢胞腎で腎臓を保護するために以下の治療を行います。
十分な飲水
2.5Lから4L程飲水すると、バソプレシンという尿を再吸収するホルモンを押さえ込み、しっかり利尿する事で嚢胞が大きくなる速度を抑える事が出来ます。
食事療法
多発性嚢胞腎での食事療法は、慢性腎臓病の食事療法と同じ内容になります。
詳しくは「腎臓の食事療法」のページをご参照ください。
カフェインは控えた方が良いという報告もありますが、あまり明らかにはなっていません。
降圧療法
高血圧の状態になると、腎機能障害が進行します。
ACE阻害薬・ARBと呼ばれる薬を中心に血圧を下げていきます。
また、ラジレスと呼ばれる血圧の薬に嚢胞を抑える効果があるかもしれないと言われていますが、腎機能障害があるとカリウムの値が上がるなど副作用も多いのでメリット・デメリットを天秤にかけて使用します。
サムスカ
サムスカ(バソプレシンV2受容体阻害薬)という薬を使用することで腎臓を保護する効果が期待できます。
ただし、すべての患者さんに利用するのではなく以下の条件を満たした場合に使用します。
- 腎臓の容積が750ml以上である
- 腎臓の容積が5%/年以上の速度で増大する
サムスカには副作用として以下のようなものがあるため、使用する場合は入院をして安全性を確認してから継続的に内服します。
- 高ナトリウム血症
- 肝機能障害 など
サムスカの科学的根拠・副作用についてはこちら
サムスカの有用性を調べた研究があります。簡単に紹介します。TEMPO3:4試験は日本人で行われた研究で、腎機能がまだ保たれている(eGFR60以上)方に対してサムスカが効くのかを調べて、最終的にeGFRの進行を27%減らして、腎臓の容積の増加率を50%程度減らすと報告されました。
REPRISE試験という研究では、比較的腎機能障害が進行した(eGFR25-65ml/min/1.73m2)の方に対してサムスカが効くのかを調べた研究で、最終的にはeGFRの低下速度を35%抑制するという結果が出ました。
一方で両者とも肝障害などの所見が報告されており、定期的な採血でフォローする必要があるとされております。
サムスカには主に肝機能検査や高ナトリウム血症などの副作用が報告されており、定期的に採血検査を行う必要があります。
サムスカを飲むことで尿量が増えるため飲水をしっかり摂取する必要がありますが、水分補給が十分でないと高ナトリウム血症という体に塩分が溜まったような状態になってしまいます。しっかり飲水(2L〜6L/日)をしてください。また、グレープフルーツと一緒に飲まない、カフェイン・糖分の取り過ぎについても注意しましょう。
また一緒に内服してはいけない薬も多くあります。シメチジン、ラニリジン、シロスタゾール、フルボキサミン、タクロリムス、シクロスポリン、エリスロマイシン、フルコナゾール、ジルチアゼム、ベラパミル、クラリスロマイシン、テラプレビルなどCYP3A4阻害する薬が当てはまります。
サムスカに関して、患者さんにとって効果のばらつきがあり、尿量が増えることによるQOLの低下があること、さらに腎不全を先送りにする効果が期待できる一方で根本的な治療にはならないため適応のある患者さんとしっかり相談して話しをしていきます。
多発性嚢胞腎の合併症の対策
多発性嚢胞腎で起きうる合併症に対して、対策を行います。
腹痛に対して
嚢胞が大きくなって腹痛があり、症状が強い場合は以下の方法も選択します。
- 腎臓摘出
- 腎動脈塞栓(腎臓への血流を無くす処置)
- 穿刺(嚢胞を吸引する処置) など
脳動脈瘤に対して
脳に動脈瘤があると脳出血を起こしやすくなるので、定期的にMRIを行い早期発見をします。
見つかった場合は、手術を行い破裂するのを予防します。
多発性嚢胞腎による脳動脈瘤の破裂は40-50代ぐらいで起きる可能性があると言われているので定期検査をしっかり行いましょう。
血尿に対して
腎臓の嚢胞が破裂して、血尿がでることがあります。
多くは安静や止血剤を内服して自然に治りますが、出血がコントロール出来ない際は手術が必要になります。
尿路感染に対して
多発性嚢胞腎の患者さんの約半数で尿路感染症、嚢胞感染症を経験します。
嚢胞に感染すると、抗生物質が届きづらく数か月の治療になることがあるので、尿に感染が起きた時は早めの抗生物質の投与が望ましいです。
多発性嚢胞腎で気を付ける日常生活
多発性嚢胞腎は、薬や合併症対策の治療が大切ですが、それ以外に日常生活を見直していきましょう。
- 肥満の是正
- アルコール・カフェインに注意
- 禁煙
- 水分補給
- 定期的な運動
- マッサージについて
① 肥満
多発性嚢胞腎で肥満があると腎嚢胞が大きくなり腎機能低下が進むことが最近わかってきました。
また肥満があると血圧などにも影響がでるため肥満は是正しましょう。
② アルコール・カフェイン
アルコール・カフェインともに多発性嚢胞腎に対する影響はまだ分かっていませんが、取りすぎには注意が必要です。
③ 禁煙
タバコに含まれるニコチンがバゾプレシンを増やし、嚢胞が大きくなる可能性が指摘されています。
④ 水分補給
飲水補給をすることでバゾプレシンを抑えて、嚢胞が大きくなるのを抑えます。
また、尿路感染や結石の予防にもなるので飲水はしっかりとりましょう。
⑤ 定期的な運動
散歩など有酸素運動は腎臓に良い効果を与えるので定期的な運動を推奨します。
ただし、外部から力のかかる運動は嚢胞から出血が起きる可能性があるので避けた方が良いでしょう。
⑥ マッサージについて
腰痛がある方が多く、マッサージを希望される方は多いです。
腹部や背中を強く押さえるようなマッサージは避けた方が良いです。
施術者にしっかりと嚢胞があることをお伝えください。
多発性嚢胞腎と難病申請
申請の条件
多発性嚢胞腎は難病に指摘されて、以下のいずれかの条件を満たせば、医療費の助成を受けることが出来ます。
- 腎容積750ml以上かつ腎容積増大5%/年以上。
- CKD重症度分類ヒートマップが赤の場合
申請を受けると、医療費が3割負担→2割負担になり、支払いの上限額が設定されます。
特に治療薬であるサムスカは非常に高価な薬なので、難病申請を行う方が金銭的にメリットがある可能性もあります。
一方で、サムスカを使用しない場合は難病申請自体の金銭的負担が治療費を上回る可能性があり、あまりメリットが無い場合もあります。
(尚、条件を満たさなくても多発性嚢胞腎に関する医療費の総額が33000円以上になる月が年3回以上あると軽症高額の補助をうけることが可能になることがあります。詳しくは各自治体の担当機関にお問い合わせください。)
申請の手続き
難病の申請をするためには以下の書類が必要です。(詳しくは難病情報センターのホームページをご参照ください。)
- 申請書
- 臨床個人調査票
- 保険証のコピー
- 課税証明書 など
申請が通ると受給者証を得ることが出来ます。受給者証を得た場合も年1回の申請が必要です。