腎臓辞典

糖尿病性腎症

糖尿病性腎症とは

糖尿病性腎症とは、糖尿病で血糖値が高い状態に年単位で晒された結果、腎臓に障害が起きた状態を言います。

糖尿病は長期間放置すると以下のような3大合併症を起こします。

  • 神経障害(痺れなど)
  • 網膜症(目が見えなくなるなど)
  • 腎症

腎症は3大合併症の最後の一つであり、日本で透析になる人の40%-50%がこの糖尿病性腎症で透析になります。

糖尿病性腎症の症状

この糖尿病性腎症は発症してから10-15年程、腎臓として症状は全くありません。

ある程度まで障害が進むと、以下のような症状が出現します。

  • むくみ
  • 尿量低下
  • 心不全 など

このような症状が出た時にはかなり障害が進行しており、頑張って治療しても中々コントロール出来ない事も多々あります。

糖尿病性腎症のステージ

糖尿病性腎症には、重症度に応じて第1期~第5期までのステージがあり、以下に検査項目で重症度を分けます。

  1. eGFR(血液検査)
  2. 尿中アルブミン(尿検査)
病期 尿アルブミン
(mg/gCr)
eGFR
(ml/min/1.73m2)
第1期
(腎症前期)
30未満 30以上
第2期
(早期腎症期)
30-299 30以上
第3期
(顕性腎症期)
300以上 30以上
第4期
(腎不全期)
問わない 30未満
第5期
(透析療法期)
透析中 透析中

(糖尿病性腎症病期分類)

糖尿病性腎症においては、第2期(早期腎症)の段階で治療を開始すると、ある程度コントロールをつけることができます。

第2期(早期腎症)の段階を越えると、厳格な血圧・血糖コントロールを行っても中々コントロールが難しくなります。

近年では、RAS系阻害薬という血圧の薬を使用したり、SGLT-2阻害薬という糖尿病の薬を使用するとより第3期(顕性腎症)でもある程度コントロールをつけることができるようになってきましたが、なるべく第2期(早期腎症)のうちに治療をしたいところです。

糖尿病性腎症の検査

糖尿病性腎症の検査は、以下のような検査を行います。

  • 血液検査(クレアチニン、eGFR、HbA1c など)
  • 尿検査(尿アルブミンなど)
  • 画像検査(腎エコー、血圧脈波、眼底検査 など)

腎臓の状態、血糖の状態、腎臓病の合併症の評価のために検査をします。

糖尿病性腎症の治療

糖尿病性腎症の治療として以下のような治療を行います。

  • 食事・運動療法
  • 薬物療法

糖尿病性腎症の食事・運動療法

糖尿病性腎症の食事療法は、以下のような食事制限を中心に行います。

  • 塩分制限
  • タンパク制限
  • 炭水化物制限
  • カリウム制限(野菜・果物)など

ただしすべての患者さんでこれらを全て制限する必要はなく、糖尿病性腎症のステージや、年齢、体重などで必要な制限が異なります。

主治医や経験の豊富な管理栄養士と一緒にしっかり協議をする必要があります。

個人的には、以下の形を基本形として状況に応じて変更することにしています。

  • すべての患者さんに行い、6g/日以下を目指します。
  • 若い方、腎臓病のステージが重症の方に行います。植物性タンパクの制限は緩めにして、動物性のタンパクを中心に制限します。加工食品は厳しく制限しています。
  • 肥満の方に行います。炭水化物を減らす際には、脂質でカロリー調整を行いますが、必ず管理栄養士と相談するようにしています。
  • 腎臓病のステージが重症で採血で「カリウム」の値が高い患者さんに行います。それ以外の患者さんには野菜・果物制限は行いません。

腎臓病の食事療法について、詳しくは「腎臓の食事の治療」のページをご参照ください。

糖尿病性腎症の患者さんの中で、高齢な方や、まだ軽症の方の場合は厳しい食事制限を勧めず、代わりに腎臓リハビリテーションと呼ばれる運動療法を推奨しています。

糖尿病性腎症の治療薬

糖尿病性腎症の治療薬は、主に「血圧の治療」、「血糖の治療」、「その他」に3つに分けます。

血圧コントロール

血圧が高いと腎臓が悪くなるスピードは早くなるため、収縮期血圧を130mmHg以下を目指します。

血圧の薬の中で、腎臓を守る作用がある以下の薬を中心に使用して治療を行います。

  • RAS系阻害薬
  • ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 など

腎臓病の治療で、圧倒的に大切な治療の1つが血圧の治療ですが、残念ながら血圧の目標値を達成している人は30%に満たないといわれています。

血糖コントロール

糖尿病性腎症で治療の肝は、糖尿病の治療を行うことで、HbA1cを7%以下にすることを目指します。

特にSGLT-2阻害薬と呼ばれる糖尿病の薬は、腎臓を守ることで近年注目されています。

腎臓病だと使用できない薬もあり、DDP-4阻害薬、グリニド薬、αグルコシダーゼ阻害薬などは比較的腎臓の機能が悪くても使用できます。

その他

血圧や血糖以外に、腎臓病で起きる合併症の治療を行います。(腎臓病の合併症については「腎臓病の合併症」の記事をご参照ください。)

  • 脂質の治療:糖尿病性腎症は、心臓や脳の障害のリスクが高いためコレステロールの治療も重点的に行います。
  • 貧血の治療:腎臓が悪くなると血を作る能力が下がり、貧血になります。適宜貧血の治療を行なうことで腎臓、心臓への保護効果も期待できます。
  • カリウムの治療:カリウムが体にたまると突然死につながる不整脈を起こす可能性があるので適宜治療をします。 

最後に伝えたい事

糖尿病性腎症について触れましたが、最後に強調したのが、以下のメッセージです。

「糖尿病」で「尿タンパク(尿アルブミン)」が出たら必ず治療をしましょう

糖尿病性腎症は、eGFRよりも尿タンパク(アルブミン)が鋭敏に腎臓に異常を見つけることが出来ます。

この尿タンパクを放置してしまった結果、透析になってしまい後悔している患者さんを一杯みてきました。この尿タンパクは必ず見逃さないようにしてください。