
IgA腎症

IgA腎症とは?
IgA腎症とは、身体の免疫の役割を担うIgAという物質が腎臓に沈着して炎症を引き起こす病気です。
IgAとは、気道や腸を中心とした身体の粘膜組織で外敵から身を守る働きを担いますが、免疫の異常が原因で腎臓を攻撃してします病気です。
日本で人工透析をしている患者さんの2割程度がこのIgA腎症が原因で透析になります。
世界中の研究者がこの病気の解明のために尽力していますが、残念ながら現段階で分かっていないことが多い病気です。
IgA腎症の予後
IgA腎症の予後はあまり良くなく、診断から20年で約半分の方が透析や移植が必要になると言われていました。
ただし、近年日本から生まれたIgA腎症の治療によって予後が改善することが期待されています。
IgA腎症の症状
IgA腎症の初期~中等症まで全く症状はなく以下のような原因で見つかることが多いです。
- 健康診断などで尿タンパクや尿潜血を指摘されて見つかる。
- 風邪をひいた後に、肉眼で見えるコーラ色の血尿があり見つかる。
このような異常があるにも関わらず医療機関の受診せずに重症になってから見つかることの多い病気です。
IgA腎症の検査
主に以下のような検査をまず行います。
- 血液検査(クレアチニン、eGFR、IgAなど)
- 尿検査(尿タンパク、尿中赤血球など)
- 腎エコー・画像検査 など
これらの検査を行い、IgA腎症を強く疑う場合は腎生検(じんせいけん)と呼ばれる検査を行います。
腎生検
腎臓の組織をとってきて顕微鏡で細胞レベルの変化を調べる検査で、診断および病勢を把握するために行う検査です。。
ただし、腎生検には以下のようなリスクが伴うため、診断をつけるメリットとリスクを天秤にかけて必要と判断した時に入院をして行います。
- 出血
- 感染 など
腎生検を行うかの判断の基準は尿タンパクの量です。
1日の尿タンパクが0.5g/日もしくは1.0g/日を越えている場合に検査を行います。
ただし、この基準は状況に応じて異なり、医療機関によっても異なるので主治医と確認する必要があります。

IgA腎症の治療
IgA腎症の治療として以下のような治療が行われます。
- ステロイド療法
- 扁桃摘出術
- 保存的加療(血圧の治療、食事の治療など)
- 上咽頭処置 など
腎生検の結果や、患者背景に応じて行うものと行わないものがあります。
ステロイド療法
ステロイド療法は腎障害の原因となっている免疫力を一時的に抑え込むことで腎臓に起きている炎症を抑えることを期待して行う治療です。
ステロイドパルスと呼ばれる点滴で大量のステロイドを投与する治療を3日間を1クールにして、合計3クール行ないます。(投与の間隔は、医療機関によって異なります。)
投与と投与の間にステロイドを内服して、3クール後に徐々に減量していきます。合計7ヶ月〜1年ほどの治療になることが多いです。
ステロイド療法はIgA腎症以外の様々な免疫関連の治療としても行われている歴史の深い治療です。
一方、ステロイドの副作用として以下のようなものが考えられます。
- 高血圧
- 糖尿病
- 白内障
- 骨粗鬆症 など
メリット・デメリットを天秤にかけて、行うメリットが大きいときに治療を開始します。
扁桃摘出術
扁桃摘出術は免疫の物質IgAを生成する扁桃腺を手術で取り除くことで腎障害を減らす治療です。
扁桃は一般的にのどちんこと言われる口蓋垂の両側にある組織で、外からの病原体やウイルスから身体を守る役割を担っています。
一般的に1歳〜7歳ぐらいまでに大きくなりますが、それ以降は自然に小さくなっていき、伴って担う役割も減っていきます。成人の患者さんで摘出しても問題ないと言われています。
手術は全身麻酔で、1~2時間ほどで行われます。開口器で口からアプローチして扁桃を摘出します。
入院期間は7〜14日程度です。
保存的加療
ステロイド療法・扁桃摘出術を行う場合でも行わない場合でも保存的加療が望ましいと言われています。
食事療法に関しては、減塩を可能な範囲で行います。腎機能障害が進行している場合はタンパク制限を行うこともあります。
薬物治療としては、RAS系阻害薬という腎臓を守る降圧薬を使用します。
また、あまり有効性は明らかではありませんが、ジピリダモール、チクロピジン、アスピリンなどの抗血小板薬やエイコサペンタエン酸と呼ばれるエパデール・ロトリガなどのN-3脂肪酸なども少ながらず効果があると言われています。
生活習慣に関しては、あまり風邪などを引かないようにすることや、タバコを辞めることが重要です。
上咽頭処置
前述のステロイド療法・扁桃摘出術・保存的加療が主な治療法なのですが、近年上咽頭処置(じょういんとうしょち)という治療法が注目を集めています。
現段階で、まだコンセンサスの得られた治療ではありませんが患者さんに説明を希望されることが多いため書こうと思います。
ステロイド療法・扁桃摘出術を行なっても20-30%の方は、血尿が消えなかったり、再び再発する人がいます。
扁桃を取り除いたにも関わらず再発する理由として、扁桃以外に炎症が起きている可能性が考えられ、喉と鼻境目の上咽頭という場所が原因になっているのではないかと考えられています。
扁桃と違い、上咽頭は切除することが出来ないので特別な薬剤を使って、鼻・口から綿棒で擦る治療を行います。これを上咽頭処置といいます。
近年、学会で上咽頭処置でIgA腎症が改善したという報告が出ており注目されています。
IgA腎症の治療のこれから
IgA腎症の治療については、まだまだ根本的な治療は見つかっておらず、試行錯誤の段階です。
最近、世界中から様々な科学的根拠が発表されています。(TESTING、STOP-IGAN、VALIGA、NAFIGANが有名です。)
一方で、IgA腎症は、民族で病態が異なったり、行われている治療が異なるため世界基準でのコンセンサスが得られておらず、日本では扁桃摘出+ステロイド療法が現在の主流です。
IgA腎症と難病申請
申請の条件
IgA腎症は難病に指摘されて、以下のいずれかの条件を満たせば、医療費の助成を受けることが出来ます。(詳しくは難病情報センターのページをご確認ください。)
- 蛋白尿0.5g/gCr以上の場合(尿検査)
- 腎生検施行例の組織学的重症度ⅢもしくはⅣの場合(腎生検)
- CKD重症度分類ヒートマップが赤の場合
(CKD重症度分類ヒートマップ)
申請によって得られる金額は収入などによって異なります。
詳しくは難病情報センターのページをご参照ください。
申請の手続き
難病の申請をするためには以下の書類が必要です。(詳しくは難病情報センターのホームページをご参照ください。)
- 申請書
- 臨床個人調査票
- 保険証のコピー
- 課税証明書 など
申請が通ると受給者証を得ることが出来ます。受給者証を得た場合も年1回の申請が必要です。