腎臓辞典

腎臓の血液・尿検査

 この記事を読む前に

腎臓の状態を把握するのには、血液検査と尿検査の二つの検査が大切です。

血液検査、尿検査で腎臓の状態や腎臓の合併症をある程度把握することが可能です。

患者さんの中には「クレアチニン」の数値で頭が一杯になっている人が多くいらっしゃいます。

しかし腎臓を専門とする医師は「クレアチニン」よりも「eGFR」や「尿タンパク」をみて総合的に評価をしています。

例えば、クレアチニンが多少上がっていても、尿タンパクが大きく減っていれば我々は治療が上手くいっていると考えます。

クレアチニンしか見ていないと、正しい治療を行っていても不安になったり、主治医に対して不信感を感じてしまうということが起きてしまいます。

色々、施行錯誤を繰り返した結果、「理解が難しい検査についても、一つ一つ患者さんに説明して頑張って理解をもらうことが一番の近道」だということが分かったため、このページでは行う血液検査と尿検査を1ページにまとめてみました。

よく使用する血液検査(10個)

クレアチニン

クレアチニンとは、腎機能の現状を示す値です。

最も認知度の高い腎臓の検査ですが、年齢・性別・筋肉量などの影響を受けて不正確になることもあります。

腎臓を専門とする医師はこのクレアチニンを特別な計算式に入れ込み計算したeGFRという値を使って腎臓を評価しています。

eGFR

eGFRとは、腎臓の糸球体と呼ばれる箇所で1分間に濾過される血液の量のことです。

この濾過量は腎機能を反映していると考えられており、60以下になると腎臓病の可能性があり、10以下になると腎代替療法の準備が必要になると考えられています。

eGFRは必ず理解が必要な値ですので初めて聞いた方は是非、「eGFR」について解説したこちらの記事を読んでください。

シスタチンC

シスタチンCとは、クレアチニンとともに腎機能の現状を示す値です。

筋肉量が多い場合など、時にクレアチニンが不正確になるのに対してシスタチンCは比較的それらの影響を受けず正確な腎機能を示すことが出来ます。

詳しくは、「シスタチンC」について解説したこちらの記事をご参照ください。

妊娠、甲状腺の病気、HIVの患者の場合、正確性が下がるため使用しない事があります。

カリウム

カリウムはミネラルの1種で野菜や果物に多く含まれています。

腎機能低下するとこのカリウムが血液中に必要以上に溜まってしまい、突然死を引き起こす不整脈になる可能性があります。

一方でカリウムそのものは腎機能を悪くしないので、腎臓病の方すべてがカリウム制限をする必要はありません。

目標値は5.5mEq/L以下です。

詳しくは「カリウムの治療」の記事をご参照ください。

カルシウム

カルシウムは骨・歯の主成分になるだけでなく、神経の伝達など様々な役割を担います。

腎機能が低下すると、ビタミンDの活性化が障害されてカルシウムが不足しがちになります。

この状態が長期的に続くと、骨を溶かしてカルシウムを補おうとしてしまうのでビタミンDとよばれる薬でカルシウムを補う必要があります。

目標値は8.5-9.0mg/dlです。

リン

リンとは、タンパク質や添加物に含まれるミネラルの1種です。

腎機能低下が進むと尿から排泄ができくなくなり、血液中に溜まってしまいます。

血液中のリンが高い状態が持続すると動脈硬化が進行したり、腎機能低下が進行する可能性があります。

目標値は目安で5.5mEq/L以下です。

詳しくは「リンの治療」のページをご参照ください。

HbA1c 

HbA1cは、糖尿病の状態を示す値です。

血糖値とは異なり、1-2か月間の血糖の状態を反映するのが特徴です。

HbA1c7.0%以下でコントロールすると、腎機能低下を抑制できると考えられています。

尿酸

尿酸は、肝臓で生成される代謝物の1つです。

痛風の原因となるだけでなく動脈硬化の原因となり、腎機能低下がある場合は積極的に下げることが推奨されています。

ただし、慢性腎臓病における尿酸の治療はそこまで効果がないんじゃないかという意見もない、治療の必要性についてまだコンセンサスは出ていません。

尿素窒素(BUN)

尿毒素と呼ばれる毒素で、腎機能低下があると尿から排泄できずに血液中に溜まってしまいます。

腎機能低下があるときにタンパク質を過剰に摂っていたり、脱水、便秘があると増えます。

主に透析直前の患者さんの毒素の排泄能を確認して、透析を行うかのタイミングを決める判断材料として検査を行ないます。

バイカーボネート(HCO3-)

身体の酸性の度合を確認する検査で、腎機能低下が進むと身体が酸性になりHCO3の値が低下します。

酸性になると身体の様々なメカニズムに異常を来すので、必要時にアルカリ剤を投与します。

目標値は24mEq/L前後です。

よく使用する尿検査(6個)

タンパク尿

尿にタンパクが混じっている状態のことで、「腎臓のSOS」の役割を果たします。

腎臓に過剰な負荷がかかっているとタンパク尿が出て、治療を行うとタンパク尿は改善していきます。

数ある検査の中で「eGFR」とともに必ず覚えてほしい検査項目で、詳しくはこちらの記事「タンパク尿」にまとめたのでご参照ください。

尿中アルブミン

タンパク尿の中でも、糸球体の障害を反映する検査として「尿中アルブミン」が使用されます。

尿潜血

尿に血が混じった状態のことを指します。

腎臓の病気の中で、IgA腎症など炎症性の病気がある場合の炎症の状態をみるために検査します。

また、腎臓だけでなく膀胱や尿管の異常でも血が混じることがあり、必要に応じてがんの検査を行う必要があることもあります。

尿中NAG

腎臓の尿細管(特に遠位尿細管)と呼ばれる箇所の障害があるときに異常値を示す値です。

腎臓に異常がなくても早朝に高くなり、夜になると低くなることがあるので解釈に注意が必要です。

尿中β2MG

腎臓の尿細管(特に近位尿細管)と呼ばれる箇所の障害があるときに異常値を示す値です。

腎臓に異常がなくても運動時や妊娠時に値が上がることがあるので解釈に注意が必要です。

尿中ナトリウム

この値を特別な計算式に組み込むことで1日の塩分摂取量を調べることが可能になります。

専門的に評価するときに使用する検査

畜尿検査

1日の尿を貯めて評価する検査を「畜尿検査」と言います。

畜尿検査では以下を調べることが出来ます。

  • 食生活の状況(塩分摂取量、カリウム摂取量、タンパク摂取量)
  • 正確な腎機能の評価(1日のタンパク尿排泄量、クレアチニンクリアランス) 

一方で24時間尿をためるため、手間がかかります。

入院をしたときや、どうしても正確に状況判断をしたり、評価をしたいときに行います。

クレアチニンクレアランス

24時間畜尿と血液検査を使って、腎臓のクレアチニンを処理する能力をみて腎臓の機能を評価する検査です。

面倒な反面、正確な腎機能の評価を行う事ができます。

イヌリンクリアランス

腎移植ドナーや抗癌剤などの化学療法を投与する患者さんでより正確な評価をしたい場合に入院して行う検査です。

イヌリンと呼ばれる負荷試薬を点滴で投与し、血液と尿のイヌリンの濃度を測定して腎臓の機能を評価します。

クレアチニンクリアランスの評価が不正確になる中等度〜重度の腎臓病の場合や高齢者の場合に測定の手間を惜しまず腎機能の評価をしたいときに検査します。