
慢性腎臓病と合併症

腎臓病と心臓病
腎臓病の方は心臓にも負担がかかり心臓の病気になりやすいと言われており、この心臓と腎臓の関連性を心腎連関(しんじんれんかん)と呼びます。
実は、腎臓病の患者さんの一番の死因は心不全で、腎臓病が進めば進むほど心臓の病気になるリスクが上がります。
心腎連関のメカニズム
心腎連関には様々なメカニズムが関与していますが、代表的なものは以下の3つです。
神経・ホルモンの影響
腎臓や心臓の機能が低下すると、交感神経と呼ばれる神経、レニンやアルドステロンと呼ばれるホルモンが活性化します。
これらの神経やホルモンの活性化は長期的には心臓に負担を与えてしまうため、心臓病でこれらの神経やホルモンを抑える薬が使用されます。
腎静脈の圧の上昇
心臓の機能が低下すると、血液の流れに渋滞が起きて腎臓から心臓への血液の通り道である腎静脈に体液がうっ滞してしまいます。
腎臓は、血液の流れにおいて入口の腎動脈と、出口の腎静脈の圧に差があるを好みます。
出口の腎静脈の圧が高くなると腎臓における血液の流れがスムーズにいかず腎機能低下が起きます。
腎血流の低下
心臓は身体の全身に血液を送る臓器で、機能が衰えると腎臓の血流が低下して腎機能の低下が起きると言われています。
動脈硬化が進行していると、この腎血流の低下の影響は大きく受けることがあります。
心腎連関の検査
腎臓病では、定期的に心臓の状態をチェックする必要があります。
心臓の検査(もしくは動脈硬化の検査)として、以下のようなものを行います。
- 血液検査
- 胸部レントゲン
- 心電図
- 心臓エコー
- 頸動脈エコー
- 血圧脈波検査 など
必要であれば24時間ホルター心電図、心臓CT、心臓MRIなどの心臓の精密検査を行うこともあります。
心腎連関の治療
腎臓の治療と心臓の治療は共通している部分が多く、以下のような治療を行います。
- 塩分制限
- 運動療法
- 利尿剤の治療
- 血圧の治療
- コレステロールの治療
- 血糖の治療
特に心臓病で使われる以下の薬はは心臓と腎臓の両方に保護的に働く作用があるので積極的に使用します。
- RAS系阻害薬
- SGLT-2阻害薬
- ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
またコレステロールを治療することで直接的に腎機能を保護する効果はありませんが、心臓や脳の病気を予防することが可能です。
特に腎臓病の患者さんでは悪玉コレステロールと呼ばれるLDL-Cの値を100mg/dl以下、可能なら70mg/dl以下にすることが望ましいです。
腎臓病と筋肉・骨
腎臓は筋肉・骨とも密接に関わっており、腎臓病になると、様々なメカニズムを経て筋肉が衰えると言われており、健康な人に比べて7割程度まで身体機能が低下していると言われています。
また腎機能低下が進めば進むほど、身体機能の低下は強くなることが分かっています。
透析患者さんの身体機能は5割まで低下しており、8人に1人が過ごしている時間の半分以上をベット上で暮らしているとも言われています。(*1)
また、腎臓病では筋肉だけでなく、骨が脆くなり骨粗鬆症、骨折になるリスクが高くなると言われています。(*2)
筋力・骨に対する検査
腎臓病における筋力低下・骨の脆弱性に対しては以下のような検査を行います。
- 血液検査
- 握力や体組成計による測定
- 骨密度の測定 など
特に、腎臓病ではカルシウムやリンなどのミネラル異常が起きて、骨が脆くなっている可能性があるため血液検査で適宜検査を行います。
筋力・骨に対する治療
検査を行った上で、治療として以下のようなものを行います。
- ミネラルの調整
- 腎臓リハビリテーション など
特に高齢の方を中心に腎臓リハビリテーションはここ数年注目を集めており、身体機能だけでなく腎臓への保護効果も期待されています。
腎臓リハビリテーションについては知りたい方は「」をご参照ください。
腎臓病と歯周病
歯周病は、糖尿病、認知症など全身の健康に大きな影響を与え、近年、歯周病と腎臓にも大きな関わりがあることがわかってきました。(*3.*4.*5)
今後、腎臓病の患者さんの歯科治療は腎機能の改善にも影響を与える可能性があり注目を集めています。
歯周病が腎臓に関わるメカニズム
歯周病の患者さんでは、P.gingivalis(ジンジバリス)という菌を始めとした歯周病菌が歯茎の毛細血管から、血管に侵入して全身の血管を障害します。
特に内皮細胞と呼ばれる細胞への障害は、動脈硬化を引き起こしたり、腎機能障害に関わる可能性があると言われています。
腎臓病の患者さんは、腎臓病でない患者さんに比べて歯周病になっている率が高いと言われており、歯周病の炎症の面積が大きいと腎機能の低下が進むという報告もあります。
歯周病の治療法
まずは、日常の歯磨きやフロスを行うと良いでしょう。その上で、定期的な歯科の受診をお勧めします。
歯周病菌は歯周ポケットの奥深くに潜み、歯科の専門用具を使って歯垢・歯石を掘り出しながら除去するのが望ましいとされているためです。
糖尿病の領域では、既に病院・診療所と歯科の治療の連携が推奨されており、今後腎臓の領域でも推奨されていくことになるでしょう。
腎臓病と認知症
腎臓病の患者さんは認知症を発症する可能性が高いと言われており、半数以上の方が軽度認知障害と呼ばれる認知症の1歩手前の状態になっていると言われています。
腎臓病で認知症が起きるメカニズム
メカニズムとしては、背景にある以下のような原因が関係していると考えられています。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 喫煙
- 心房細動 など
また腎機能が低下することで起きる以下のようなメカニズムも関与していると言われています。
- 腎性貧血の影響
- 副甲状腺機能亢進症の影響
- 酸化ストレス
- レニン・アンジオテンシンの活性化
- 交感神経の活性化
認知症の治療
認知症の治療薬で効果の高いものはまだなく、以下のような生活習慣の改善が望ましいです。
- 適度な運動
- 社会生活への積極的な参加
- 囲碁・麻雀
- 散歩・スポーツ
加えて認知機能低下を起こす原因の血圧などの治療することが大切です。
<参考文献>
*1 Am J Nephrol. 2013;38(4):307-15
*2 Osteoporos Int. 2005 Dec;16(12):1683-90.
*3 J Periodontal Res . 2018 Oct;53(5):682-704.
*4 J Clin Periodontol . 2016 Feb;43(2):104-13.